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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)2387号 判決 1972年6月28日

原告 滝野川信用金庫

理由

一  (原告の宮坂電機株式会社に対する債権)

原告と宮坂電機との間に原告主張のような金融に関する継続的取引契約があつたこと、昭和四五年一一月末日宮坂電機の原告に対する諸債務につき弁済期が到来したこと、原告が相殺基準日を昭和四六年一月一二日として別紙債権一覧表(A)記載の債権、債務につき対等額で相殺をし、その結果、原告の宮坂電機に対する債権は昭和四五年一〇月二九日付手形貸付金の残元金六、一六〇、〇〇〇円となつたこと、また、原告の宮坂電機に対する預金債務は二八、七九七円となつたことは、当事者間に争いがない。

次に、原告が昭和四六年七月三一日を基準日としてさらに右手形貸付金残元金を自働債権として相殺の意思表示をしたことも、当事者間に争いがない。そしてこの第二次相殺の効果について検討するに、相殺は、特段の事由のない限り、相殺適状になつたときに遡及してその効果が生じるものであるところ、別段の主張のない限り、原告主張の宮坂電機の原告に対する各受働債権と右原告の自働債権とは遅くとも被告主張の昭和四六年一月三一日(すなわち、原告主張の遅延損害金の起算日の前日)にはすでに相殺適状にあつたものと認められる(特段の主張、立証のない限り、請求原因A二4(一)(1)の「出資金払戻し請求権」についても同様であるとみるほかない。)。ところで、原告は、第二次相殺の受働債権の一である「普通預金元金残高」(請求原因A二4(一)(4)の同年七月三一日までの利息額は金三六五円であると述べているが、被告側は右想定することができる相殺適状の時点までに利息額を生じていたかどうか、生じているとしていくばくであるかについてなんらの主張、立証をしないので、本訴においては、それが無いものとして取り扱うほかはない。すると、右一月三一日における宮坂電機の受働債権は計金五八、七九七円であるということになり、この相殺により、原告主張の自働債権額(六、一六〇、〇〇〇円)中この金額に相当する部分については、同年二月一日以降は遅延損害金は生じなかつたことになる。そこで、原告主張の元本債権額(六、一六〇、〇〇〇円)から右金額を控除して得た金額(六、一〇一、二〇三円)について原告主張の期間(一五一日間)原告主張の割合(日歩五銭)による遅延損害金が生じたものというべきであるが、その額は金四六〇、六四一円と算出される。

二  (原告の日本脱湿機械株式会社に対する債権)

原告と日本脱湿機械との間に原告主張のような金融に関する継続的取引契約があつたこと、昭和四五年一二月四日、日本脱湿機械の原告に対する諸債務につき弁済期が到来したこと、原告が相殺基準日を昭和四六年一月一二日として別紙債権一覧表(B)記載の債権、債務につき対等額で相殺をしたこと、日本脱湿機械の原告に対する受働債権中右債権一覧表(B)2の(一)から(六)までの各定期預金の数額および右第一次相殺後の原告の日本脱湿機械に対する債権は昭和四五年九月二五日付手形貸付金の残元金となつたことについては、当事者間に争いがない。被告日本脱湿機械破産管財人は、右相殺後の原告の残元金の数額を争うが、日本脱湿機械の原告に対するその余の受働債権の発生、存在については、同被告において特段の立証をしないので、原告の自陳するところ(右一覧表(B)2の(七)から(九)までの各定期積金の「掛込残」および「預金利息」の額)によるほかはない。すると、右相殺により、原告の日本脱湿機械に対する右手形貸付金残元金は原告主張のとおり八、二五〇、〇〇〇円であり、他方、原告の日本脱湿機械に対する預金債務は二七、〇九七円のみとなつたということになる。

次に、原告が昭和四六年七月三一日を基準日としてさらに右手形貸付金残元金を自働債権として相殺の意思表示をしたことも、当事者間に争いがない。そこで、この第二次相殺の効果について検討するに、前記宮坂電機関係の請求につき、述べたところと同様の理由により、右原告主張の自働債権と日本脱湿機械の原告に対する各受働債権とは被告日本脱湿機械破産管財人主張のとおり、遅くも昭和四六年一月三一日には相殺適状にあり、したがつて、右相殺の効力は少なくともこの日に遡つて生じたことになる。ところで、原告は、右第二次相殺の受働債権の一である「普通預金残高」(請求原因BA二4(一)(4))の同年七月三一日までの利息額は金三、七三〇円であると述べているが、被告側は右想定することができる相殺適状の時点までに利息額を生じているかどうか、生じているとしていくばくであるかについてなんらの主張、立証をしないので、本訴においては、それがないものとして取り扱うほかはない。すると、右一月三一日における日本脱湿機械の受働債権は計金七七、〇九七円であるということになり、結局、原告主張の昭和四五年九月二五日付手形貸付金元本の残額は、右第二回目の相殺により八、一七二、九〇三円となつたことになる。また、同年二月一日以降の遅延損害金は右金額について原告主張の期間(一三一日間)原告主張の割合(日歩五銭)により生じたものというべきであるが、その額は金五三五、三二五円であると算出される。

三  (請求の適否等)

本訴は、破産法に定める債権確定訴訟であるところ、その訴えは、同法所定の異議のある債権についてのみ許されるべきである。破産手続において適式に届出があり債権表に記載された破産管財人等の異議が述べられていないときは、債権は確定し債権表の記載は確定判決と同一の効力を有することになるからである。

ところで、

1  宮坂電機(破産者)関係では、当該破産手続において、原告から前記昭和四五年一〇月二九日付手形貸付金残元金に対する昭和四六年二月一日以降の遅延損害金として金四六五、〇八〇円の債権の届出があり、同被告破産管財人においてそのうち金四、四一七円について異議が述べられたことおよび以上は債権表に記載されたこと、

ならびに、

2  日本脱湿機械(破産者)関係では、当該破産手続において、(イ)原告から前記昭和四五年九月二五日付手形貸付金元本残として金八、一六九、一七三円の債権および(ロ)前記第二次相殺前の右貸付金元本(八、二五〇、〇〇〇円)に対する昭和四六年二月二一日以降の遅延損害金として金五四〇、三七五円の債権(ただし、届出に際しては、誤つて種類を「利息」と記載)の届出があり、同被告破産管財人において右(イ)の債権のうち二、一七二、七一三円について、(ロ)の債権のうち一四七、六三七円についてそれぞれ異議が述べられたことおよび以上は債権表に記載されたことは、当事者間に争いがない。

すると、原告の宮坂電機関係の本訴請求は、当該届出遅延損害金債権(四六五、〇八〇円)のうち所定の異議がなかつた金額(四六〇、六六三円)に相当するものの確定を求める部分は、不適法である。また、右請求中右異議があつた金額に相当するものの確定を求める部分は、原告が確定を求める債権が前認定のように金四六〇、六四一円の限度において認定することができたのにすぎないから、結局理由がなく、失当であることに帰する。

次に、原告の日本脱湿機械関係の本訴請求は、(イ)当該届出手形貸付金(残元本)債権(八、一六九、一七三円)のうち所定の異議がなかつた金額(五、九九六、四六〇円)に相当するものの確定を求める部分は不適法であるが、そのうち異議があつた金額(二、一七二、七一三円)に相当するものの確定を求める部分は、前認定の残存額からして、結局全部正当として、認容すべきである。また、本訴請求中(ロ)当該届出遅延損害金債権(五四〇、三七五円)のうち、所定の異議がなかつた金額(三九二、七六六円)に相当するものの確定を求める部分も不適法であるが、そのうち異議があつた金額(一四七、六三七円)に相当するものの確定を求める部分は、金一四二、五五九円(前述この遅延損害金債権額であると算出された五三五、三二五円から右異議のない三九二、七六六円を控除した額)については理由があるから認容することとし、その余はその存在が証明されないから、理由がなく失当であることになる。

四  (結論)

原告の本訴請求の適否、当否については前項に述べたとおりであるところ、そのうち理由がある部分については債権を特定してその存在を確定することとし、その余は不適法または理由なしとして請求を棄却

(裁判官 内田恒久)

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